あっちこっちケイイチ 習作

よたかの日記を兼ねたブログです

『フェアリータウン』30歳になった夜よたか

フェアリータウン
『フェアリータウン』は、琴里和水さんの『サイズ違いの恋物語』を元に、pixivのリサイクル小説コンテスト に入品した作品です。

食料問題、エネルギー問題を解決すべく人間を1/8に縮小するフェアリータウン計画。しかし人体実験など違法な処置なども含まれるため秘密裏にプロジェクトはすすめられていた。フェアリーと呼ばれる住人が一般人と出会う事が無いように万全を期していたのだが、ネットワークエラーが原因で1組の男女が出会ってしまった。プロジェクト側に追われる2人はどうする。

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 記念日にしたくない誕生日。ずっと彼女がいないまま30年を迎えた。かといってどうしても誰かと付き合いたいわけでもない。
 ドラマやアニメを見たり、ラノベを読んだりしてると“楽しいかもしれない”と思う事もある。だけど出かけるだけでイロイロと金がかかりそうだし、側に居るだけで気を使うとか無理だし。夜中に愚痴メッセージとか最悪すぎる。
 たまらない。
 どう考えても面倒くさい。
 そうは言っても、1人きりの誕生日はちょっとだけ寂しい。
 旧友の結婚報告や、婚約した同僚のニヤケ顔を見ると、なんとなく人肌が恋しくなって将来の事を気にしたりする。『ひとりぼっちで40歳、50歳を迎えるのは結構寂しいのかもしれない』と少しテンションが下がったりもする。
 そんな時は、ひとときの人肌を求めて、ネットのSNSを彷徨って相手を捜してきた。
 ネットで相手を探すのはリスクが伴う。慣れない時は出会い系に何万円もつぎ込んだ。ユーザーの多いSNSならチャンスも増えるけど“子ども”も居る。もし子どもと約束すると結構対応に困まる。割り切ってつき合うつもりなのに、大人の話が通じないので結局変に気を使う事になってしまう。
 そのまま流されて最後までやってしまえば犯罪者。妻子はなくとも、親はまだ生きてる。会社での立場もある。だから下手な事はできない。子どもと出会ってしまった時は覚悟を決めて『イイお兄さん』を一晩中演じるしかない。別れ際に「おじさん。また話聞いてねぇ」とか言われても「あぁ」とだけ返事をして別れる。
 携帯番号も、メアドも教えてないのにどうやって会うつもりなんだか。だいたい話なんか聞いちゃいない。というか、何を話してるのか半分くらいしか解らない。それでも彼女たちは満足なんだろうか?
 俺にはそれさえもわからなかった。
 SNSで相手を探すのはそういう感じだ。子どもとサクラに気をつければ、それほど難しくなかった。だいたい3割くらいは上手く会ってきた。
 そしてその夜は運良く、早々によさげな女性を見つける事が出来た。いや後から考えると、それは最悪の出会いだったのかもしれない。
 相手は“ゆゆ”と名のる女性。それまでのタイムラインを見る限り、業者特有の書き込みやフォローが無かったし、アオリの少ない文面から子どもでもないと思った。写真も常識的な範囲で顔を出している。だいたい25歳くらいだろうか。
 それでも、この女性がひとときの相手を探している事はすぐにわかってしまった。『まずはお友達から』この一文の位置が絶妙すぎた。詳しい理屈はともかく『彼女は今晩の相手を探してる』とすぐにわかった。
「はじめまして。30歳になったばかりの“タケ”です」と書いてダイレクトメッセージを送くった。“ゆゆ”さんも結構ノってきたみたいで、すぐに5通ほどのメッセージをやり取りができた。
 たとえ今晩の相手を探していたとしても、最初のメッセージから『会って一緒に寝ましょう』などとは書かない。
 ココは“前戯”を楽しむように回りからゆっくりと攻めて、相手に心の準備をしてもらった方がお互いに楽しめる。
 中身のないこんなやり取りでも結構楽しい。たった一晩の付き合いだけど、やり取りをしているうちに、お互いが距離を意識しながら近づいて、いろんな想像をしながら文字をならべる。
 10代の頃はこんな気持ちを何度も経験して来た気がする。もしかするとそれは“恋”だったのかもしれない。だけど、一晩だけの相手を探してやり取りするメッセージと、懐かしい10代の感情を一緒にするのは抵抗があった。
 何通かのメッセージを繰り返して、やっと待ち合わせの約束まで取り付けた。しかしちょっと変な感じがした。相手の指定する場所がいまひとつピンとこなかった。知らないだけかもしれない。でも、駅名や店にも聞き覚えのない名前ばかりだった。
 もしかしたら相手は会うつもりが無いのかもしれない。しかしそうとも思えない。というか諦められない。試しにコチラから公園を指定みると、あっさりとOKが返ってきた。多少の違和感を感じたけど、19時の約束に間に合わせるためにスグに部屋を出た。少し遠いので遅れるかもしれない。それ程広い公園でもないけれど、遅れるかもしれないので一応、携帯番号を教えておいた。
 その時は『どんな女性だろう』と、トキメキにも似た気持ちで公園へ向かった。
 すごしやすい春が終りかけて、もうすぐ梅雨。雨はイヤだ。ゲリラ豪雨というのか、最近は雨の勢いが強い様に感じる。きっとこれは異常気象なんだと思った。
 そんなどうでもいい事を考えながら公園へ急いだ。気がつくと少し早足になっていた。

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 窓が無いフェアリータウン管理室は照明も少なかった。だけど、モニターからもれる青白く乾いた光で満たされていたので、決して暗くはなかった。
 何枚もの大型モニターには、サーバーのアクセスログや、街中の監視カメラの映像が映し出されていて、オペレータたちがずっと眺めていた。とはいえ、選ばれた人間しか住めないフェアリータウンでは、事件らしい事件が起きる事もなく、オペレーターたちにとって、監視は退屈な仕事だった。そこに油断が生まれる。
 夕方18時30分。
 日勤から準夜勤に引き継がれる監視の隙間。担当オペレータが雑談に夢中になっているほんの数分の間に、グリーンの文字列が並ぶモニタの中に、赤いアラートが一行だけ表示されていた。
『Notice: Anonymous access to Fairy town.(告知:誰かがフェアリータウンにアクセスした)』緊急ではないが監視する義務が発生する警告だった。
 交代したオペレータの目がモニターに戻った時、赤い文字列は、緑の文字列に押し流されて消えてしまった後だった。
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